11月のアルカディア 本州から遠く離れた南海の孤島・累世島(るいせいとう)。島を囲む美しい海と、歴史ある西洋風の街並みが魅力の観光地だ。街の中心にある学園が創設祭を迎える 10月は、街全体がハロウィンの装いとなり観光客を出迎えてくれる。主人公・有坂拓翔は、創設祭を間近に控えた学園で準備に追われていた。準備といっても祭りの準備ではない。 祭りを守るための、だ。学園には【すべての願いを叶える】 とされる宝石が保管されている。それが一般展示される創設祭の日、宝石の強奪を目論む輩は毎年のように現れる。それでも宝石が 1度も学園の外に出たことがないのは、島民や学生の有志で結成される自警団に守られてきたからなのだ。拓翔は1年の時から 自警団 《11月》 に所属し、今ではその能力を買われ団長を務めていた。獣人化の異能を持つ おっちょこちょいな後輩・ 野々宮楓花。閃きのままに生きる 気さくで明るい同級生・ 三刀屋瀬奈。風を操る異能を持つ 優しくて頼れる先代の団長・ 星崎心音。能力は不明。 天然かつ毒舌な期待の新人・ 羽鳥愛瑠。信頼できる仲間たちと力を合わせ、宝石を守る。 いつもなら、そうだ。だが今年は違う。自警団のリーダーは表の顔。 拓翔は窺っていたのだ―― 宝石を奪うチャンスを。宝石を奪い、死んだ妹を蘇らせる。 そのために3年を費やし準備を重ねてきた。祭りの夜に交錯するそれぞれの願い、それぞれの想い。祭りを終えたその先にきっとある理想郷(アルカディア)を信じ、彼らは、彼女らは、運命の10月31日を迎える―― | |
放課後の不適格者 私立秋華学園は秋を迎えていた。一年生はようやく学園生活に慣れ、二年生は学園生活を謳歌し、そして三年生は卒業を控えて学園生活を懐かしむ。そんな季節。常盤イツカも、秋華学園に通う学園生の一人だった。学年は三年生。サッカー好きのどこにでもいるような平凡な少年だった。彼は友人達に囲まれて、ごく当たり前の生活を送っていた。幼馴染みの双子の姉妹、夕顔と朝顔。同じサッカー部に所属していた親友の純。長い付き合いの悪友、康介。まとめ役の委員長、奏。担任の国語教師、栞。特別な事など何一つなかったが、楽しくも幸せな毎日を送っていた。だが、ある日を境に彼らの生活は一変する。クラス全員で参加した合唱コンクールの帰り道、彼らは正体不明の一団に出会う。この出会いが、イツカ達の運命を大きく捻じ曲げていく。イツカ達の生活は大きく変貌していく。あたたかく平凡な日常から、寒々しく血生臭い非日常へ。それは絶望と悲しみだけで織り上げられた、いつまでも終わる事のない悪夢だった。その悪夢の中でイツカは次第に追い詰められていく。平凡な少年の精神は悲鳴を上げ、救いを求めて彷徨い続ける。しかしその悪夢の中にあるのは、イツカの手に染み込んだ罪と罰だけ。救いなど、どこにも存在していなかった。イツカは破滅に向かってただ歩き続ける。長い時間をかけて、多くの人々と築き上げてきた絆と想い出を、自らの手で粉々に打ち砕きながら。 |